最近の児童心理学の研究において、学習において「ワーキングメモリー」が、大変重要な役割を果たすということが、広く知られるようになっています。「ワーキングメモリー」というのは、どういうものなのでしょうか。
イギリスのDurham University教育学部のDr. Allowayを中心とした、3,000人の子供たちを対象にした調査研究により、教師からは、一見知能的な問題を抱えて成績不振に陥っているように見える生徒の中に、学年を問わず各学年約10%の生徒に、知能ではなくワーキングメモリーの機能が弱いという問題を抱える生徒が含まれているということが、報告されています。
Children’s Under-achievement Could Be Down To Poor Working Memory
https://www.sciencedaily.com/releases/2008/02/080227205111.htm
Date: February 29, 2008
Source: Durham University
Summary: Children who under-achieve at school may just have poor working memory rather than low intelligence according to researchers who have produced the world’s first tool to assess memory capacity in the classroom.
Story Source: Materials provided by Durham University. Note: Content may be edited for style and length.
Cite This Page: MLA Durham University. “Children’s Under-achievement Could Be Down To Poor Working Memory.” ScienceDaily. ScienceDaily, 29 February 2008. <www.sciencedaily.com/releases/2008/02/080227205111.htm>.
Dr. Alloweyは、「こうしたワーキングメモリーの問題を抱えている子供達には、それを考慮した学習指導を行うことで、将来にわたるまで、その子の学習の妨げとなるワーキングメモリーの問題を克服し、学業成績の向上に繋げていくことが可能となる」と話しています。
ワーキングメモリーとは、なんでしょうか。短期記憶に保存される情報を的確に取捨選択し記憶し、それを必要な時に瞬時に判断して引き出して使い、また新たな情報に更新していく人間の脳の記憶機能のことを指します。ワーキングメモリーは、「エグゼクティブファンクション」と言われる企画実行推進能力にとって、重要な役割を果たすものであり、企画力・実行力・自己抑制力につながることが分かっています。
ワーキングメモリーは、乳幼児期に発達しますが、トレーニングや経験によって伸ばしていくことができるということもわかっています。
上記のDr.Allowayによる研究のレポートで紹介されている、日常生活でのワーキングメモリー活用場面は、以下のようなものです。
・口頭で言われた二つの数をペンや紙、計算機などを使わずに暗算で足し算する
・新しい電話番号や暗証番号、車のナンバーなどを記憶して、必要な時に思い出す
・口頭で説明を受けた道順を辿って、目的地へ行くことができる
・馴染みのない外国の人の名前を紹介された時に記憶して、しばらく経って他の人に紹介する時に思い出す
・料理のレシピを一度ざっと目を通しただけで、正確に材料を揃えて的確な分量を混ぜ合わせる
こうした能力が、他の人よりも秀でている人は、学習場面で幼い頃から優秀な成果を上げることが、容易くできるということなのかもしれません。けれど、例え苦手な場合でも、暗算や道順を記憶して目的地へ行く、レシピを見て料理を作るなど、幼少期から楽しく生活の中で取り入れてトレーニングしていくことは可能だと思います。
両親や教師などの言いつけを守れない場合にも、こうしたワーキングメモリーに問題を抱えている場合が少なくないようです。そうした子どもに対して、厳しく叱りつけたり、何度言ってわからない子だと決めつけたりするのは、その子の自尊心を損ない、劣等感を植え付けるだけで逆効果です。
指示を出す大人の側が、なるべく短い言葉で、一つ一つステップを細かく区切って指示を出すようにしていあげれば、ワーキングメモリーが弱い子どもでも、混乱せずに学習課題を達成していくことができるそうです。その子の学習の遅れが深刻になる前に、周囲の大人や教師が気づいて対応していくことが鍵となります。
メモリーゲーム(神経衰弱)などの、知覚したものを記憶して想起するプロセスをトレーニングするゲームは、3歳くらいから楽しめるカードゲームなども、いろいろあります。お使いをしたり、伝言をしたりする場面も、その子ができる範囲から、少しずつステップを踏んでいくことが大切でしょう。もしも壁に当たる場合は、メモを取ることを教えるなど、その子なりの対処法を見つけていくことの方が、できないことに執着して無理にやらせようとするよりも、ずっと有効で合理的です。
口頭で話すこと、目で読んだことだけで記憶することが、なかなかできな子どもには、シールやマグネットを貼ったり、塗り絵をしたり、なぞって書かせたりすることで記憶させていくことも、とても有効です。その子自身が、自分が記憶しやすい方法を理解して、日常取り入れていければ、ワーキングメモリーが弱くても、それが学習の障害となることはなくなります。「他人と同じようにできない」ことにフォーカスせず、「その子なりのやり方を見つけていく」ことが大切です。
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